何故、自分と同じ姿形をした上に羽の生えたヤツが、沖田に抱かれているのか。
戸惑いと混乱に凍りついた土方は、その情事を見続ける形になってしまっていた。
だが、それも一瞬。
沖田が愛しそうに自分の名を呼び、羽の生えた土方を抱き寄せた時、土方は無意識に飛び出していた。

「総悟!!」

駆け寄った土方は、羽の生えた土方の肩を掴み沖田から引き剥がす。
しかし羽の生えた土方は動じずに微笑んだままで、沖田は恍惚とした表情で本物の土方を目には映していなかった。
そんな2人を完全に引き離させようとするも、密着していた身体に隙間が出来ると、自分と似たそれが勃起しているのと結合箇所が露わになり、土方は言葉を失う。
それでも、なんとか気力を振り絞り、土方は自分と似た相手に掴み掛かった。

「誰だ、テメェ!?」
「俺はリリス」
「………りりす?」
「食事中なんだ。邪魔すんじゃねぇ」

殊の外アッサリと会話が成立したコトに、土方は半分ホッとし半分疑惑を深める。
返ってきた答えではすぐさま連想出来るモノは何もなく、土方は反射的に更に記憶中枢を探ろうとした。その隙に、リリスと名乗った土方が、土方の手をやんわりと解き、そのまま沖田の首へと絡ませる。

「土方さん…」

恍然とした沖田の声に、土方の意識が戻った。
だが、その沖田が見ているのは、土方本人ではない。
土方がハッとした時、リリス土方は沖田に口付けていた。

「だから!答えになってねぇんだよ、テメェ! 総悟に何してやがる!!」

土方が怒鳴り付けるも、先ほど以上に強く抱き締め合った2人は、今度はおいそれとは引き離せない。
沖田のモノを咥え込み欲情に染まった自身の姿など、見るに堪えない。
余りの羞恥に尻込みしそうになる土方を余所に、リリス土方は沖田に跨ったままに腰を揺らし始めた。

「あッ…総悟、早く…早く総悟のミルクで、俺の中一杯にしてぇ!!」
「――――ッ」

キスの合間に漏れた卑猥な言葉の羅列。
自分の姿と自分の声で、有り得ない要求を口にされ土方が絶句する。
そしてその要望通りに、沖田が精を吐き出した。
荒く肩で息をし、沖田はそのまま後ろへ倒れ込む。
リリス土方は、萎えた沖田のそれをずるりと自分の中から引き抜いた。

満たされた表情で1つ身震いをし、リリス土方が土方へと向き合う。
唇の端だけを持ち上げ、不敵に微笑った。

「ゴチソウサマ」

細められた双眸にその笑い方。まるで鏡を見ているようだと、土方は思った。
土方が茫然としていると、ふわりと翼を広げたリリス土方の身体が宙に浮く。
そのまま、リリス土方は闇の中へと消えてしまった。

それからも土方は、身動き1つ取れなかった。
たった今起きたことは、全て夢だったんじゃないかと思った。思いたかった。
くぐもった沖田の寝言に、土方がハッとする。
いつの間にか寝入っていたらしい沖田の寝顔は穏やかだ。
しかし、やはりどこか衰弱して見える。

原因は間違いなく、ヤツだ。

やり場のない怒りが込み上げる。
自分の姿をしたヤツが何者なのか。沖田の身に何が起きているのか。何も分からない事が、余計に癪に触った。
着崩れた沖田の寝巻きを正し、掛け布団を掛けてやる。
なんとなくその場を離れることも出来ず、ゆっくりと沖田の髪を梳いている内に、土方もその場で眠ってしまった。





眠りから覚めた沖田は、いつもはいない筈の人が自分の隣で寝息を立てていることに驚いた。
朝沖田の部屋から出て行く所を、もし他の誰かに見られたら問題だから。確かに、彼はそう言っていたのに。
だけど、こうして目覚めを共に出来ると、改めて嬉しくなる。
やっぱり夢じゃないんだなぁと、実感出来た。

「土方さん…」

寝起きの掠れた声で沖田が呼ぶも、土方に反応はない。
あまり夢見のよさそうではない寝顔に、寝てる時まで難しい顔してんだな、と沖田は妙に微笑ましく思った。

「土方さん、起きなせぇよ。アンタが言ったんでしょ、夜は自分の部屋に戻るって」
「ん…」
「土方さん」
「あ…総、悟?」

沖田に揺り起こされ、やっと土方も覚醒し始める。
ぼんやりとした思考で状況を把握しようと努めると、徐々に昨夜の記憶も掘り起こされた。

「総悟!?おまっ、大丈夫か!!?」

突然全てを思い出した土方が飛び起き、沖田の肩を掴み揺さ振る。
土方の剣幕に沖田はキョトンとした後、土方の手を取りはにかんだ。

「やだなぁ。大丈夫かってのは、土方さんの方でしょう」
「は!?」
「昨夜もスゲェよかったですぜ」

土方が呆気に取られていると、いとも簡単に沖田に唇を奪われる。
無意識に後退りそうになった身体は、沖田の腕に閉じ込められた。

「なッ…な」
「ホントに土方さん、夜とは全然違う〜。よくそこまで、使い分け出来やすねぃ」

立て続けに起こる認識範疇外の事態に、土方の脳は全く追い付いてくれない。
土方を抱き締めたまま、沖田は1つ欠伸をした。

「だけど、自分の性癖が周りにバレたら真選組には居られなくなるから秘密にしろって言ったの、アンタでしょう。だから、昼間も夜のことは絶対に口にするなって。俺だって土方さんと離れ離れになりたくないから協力してやってたのに、何で今日はここで寝ちまったんですかぃ? やっぱり身体、ツライんじゃ…」
「!」

気遣うように自分の腰を撫でる沖田の手を、土方は勢いよく振り払う。
その土方の反応に目を丸くした沖田だが、すぐに"大丈夫そうですねぃ"と、安心した顔を見せた。

「大丈夫なら、自室に戻った方がいいんじゃないですかぃ?まだ早いから、今なら誰も起きてないでしょうし」

最後とばかりに沖田の腕に力が篭り、土方は沖田から解放される。
沖田の口振りから、やはりもう随分前から"こう"なのだと、土方は悟った。
リリス土方は適当な事をでっち上げて、昼間本物の土方に話を振るコトを避けさせたワケだ。
なんとなく、全てに合点がいった気がした。
ただ、1つを除いて。

沖田が妙に幸せそうなのは、この事が起因してるのは間違いない。
だが、何故"これで"沖田が幸福感を持てるのかが、土方には分からなかった。
自分の弱味を握ったことに対する優越感などではなさそうだ。
かと云って、自分の知る沖田を思い返しても、他に思い当たる理由が見付からない。
まさか、とは思うが。

"俺のコト抱いてるコト自体が、総悟は嬉しいのか…?"

辿り着いた答えに、慌てて首を振る。
まさか。まさか。
きっと他に、人の予想の斜め上を行くような何かがあるんだ。そうに決まっている。
土方は必死に自分に言い聞かせるように、脳内でそう繰り返す。

その場は適当にはぐらかし、自室に戻った途端土方はへたり込んでしまった。






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