沖田に罪はない。
それは分かるし、分かってる。
だが。
土方は、マトモに沖田の顔が見れなかった。
沖田の変調の原因をそれとなく探り入れてくれと近藤にせがまれた土方は、沖田と2人で見回りに出されてしまった。
朧気ながらその実情の片鱗は見えている。見えてはいるが、それは近藤には話せない。
"自分の姿をした化け物とセックスしてるのが原因かもしれない"なんて、土方に言える筈がなかった。
となれば、断る理由も作れない。
しかし今の土方にとって、沖田と過ごすのは拷問だった。
実際は偽者だとは言え、沖田は昨夜のリリス土方を本物の土方だと思い込んでるワケで。
あの、淫乱を絵に描いたような娼婦のような姿が、自分だと。
それも、いつからかは分からない。沖田は口には出していなかったものの、ずっと昼間でもそう云う目で土方を見ていたことになるのだ。
どれだけ真面目に隊士の指揮を執り、怒鳴り付けていたとしても、沖田からしたら全く別の印象にしかならない。
『こんなスカしてても、夜になったらあんな善がっちゃうんだからなぁ、この人』
そんなコトを思われていても、不思議はない。むしろそれが自然な流れだろう。
最近よく投げ掛けられた意味有り気な沖田の笑みも、正体不明の悪寒も、全てに納得してしまった。
"………顔から火が出そうだ"
今も並んで歩く自分を見ながら、昨夜のアイツを思い返してるのかもしれない。
沖田から、全ての記憶を抹消してやりたかった。
しかし、そんなコトが叶わない事くらいは、土方にも分かっている。
だったらせめて、その元凶くらいは抹殺してやる。
煮え滾る腸を何とか押し込み、その夜土方は沖田を自室に呼んだ。
夕餉の後土方の部屋に招かれた沖田は、やたらきょろきょろしたり落ち着きがない。
その理由が分かる為、土方も自室なのに息苦しかった。
「…初めてじゃねぇですかぃ、土方さんが夜部屋に呼んでくれるのなんて」
「……だろうな」
「夜這いするのが好きなんだって、言ってたのに」
「ッ!?」
「まぁ、偶には違う趣向もいいですけどねぃ」
一体あの化け物は、どれだけの出鱈目を沖田に吹き込んでくれているのか。
酸欠状態に加えて、土方は頭も痛くなってきた。
じりっと距離を詰めてくる沖田から、土方も同じだけ後退る。
その土方の態度に、沖田が怪訝に顔を顰めた。
「土方さん?」
「いや、ちょっと待て。まだ早い」
昨夜、ちゃんと自分も居たのに認識してくれていなかった沖田である。口で説明しても、理解させるのはきっと難しい。
だったら、百聞は一見に如かずだ。また、リリス土方が来るのを待った方がいい。
実物を前に説き伏せるのが1番確実だと、土方は結論付けていた。
しかし、ここでまた新たに別の憂慮が浮かぶ。
もし、リリス土方が現れなかったら?
昨夜までの情事が既に慣例状態と化してる沖田を諭し、自分は逃げることが出来るのだろうか。
時間が経つに連れ、土方はむしろそっちの心配のが大きくなってきた。
土方は認めたくないが、自分より沖田のが強いのだ。沖田に切れられ実力行使に出られてしまったら、躱し切れると言える自信がないのが我ながら情けない。
土方はなんだかんだと言い逃れ続け、遂に時間は日付を変えた。
いい加減緊張するのも馬鹿らしくなった沖田は、既に完全に寛ぎ体勢に入っている。
形だけは書類と面してる風体を装ってはいるが、常に沖田の動向に神経を尖らせている土方に、今マトモに仕事など出来る筈がなかった。
ふと、目の色を変えた沖田が、土方に近付いて来る。気付いた土方の身体が強張った。
「いつも夜は素直だったから失念してやした」
「は?」
「今日はいつもと趣向が違ったんですよねぃ」
背後から圧し掛かる沖田に、土方は上から顔を覗き込まれる。
肩に込められた沖田の手の力に、土方の背を冷たい汗が流れた。
「今夜は強引に迫って欲しかったんですかね。気付いてあげられなくて、スミマセン」
「なッ」
沖田は、土方に何の異論も唱える余地など与えない。
言うが早いか、土方は沖田に引き倒された。この体捌きはやっぱり見事だなぁなどと、土方は呑気に感心している場合ではない。
夜に自室に呼んで、意味は違えど明らかにずっと存在を意識していれば、そういう解釈に到達しても無理はない。
ましてや、沖田の中では自分達は情人。当たり前といえば、当たり前の展開だ。
土方は自分の迂闊さに、内心頭を抱えた。
「ちょっ、待てって!」
「焦らしプレイもここまで来たら、臨界点直前でぃ。お望み通り、溜め込まれた勢いでメチャクチャにしてやりまさぁ、覚悟しなせぇ」
今までに見たことのない沖田の欲情した瞳に、土方が息を呑む。自分の知っていた子供は、知らない間に一端の男に成長していたらしい。
土方の両手は沖田の片手に縫い止められ、下半身も完全に足で押さえ込まれている。
開いた片手で器用に袂を寛げられ、土方は本格的に身の危険を感じた。
「総悟……!」
祈るような気持ちで、沖田の名を呼ぶ。
キスでもしてくれば噛み付いて隙も作らせられるのに、沖田は本能的にそれを感じ取っているのか、そんな素振りは全く見せない。
鎖骨に唇を寄せられ、肌が粟立った。悲愴感に、土方がギュッと目を瞑る。
しかし、何故かそれきり一向に沖田が動かなくなってしまった。
不審に思った土方が恐る恐る瞼を開くと、焦点の合っていない沖田の顔が目に映る。
昨夜見た沖田と同じで、自我の抜け落ちたような状態。
まさか、と土方が外の障子に目を向けると同時に、土方は沖田の戒めから解放された。
「総…」
「総悟、ここに居たのか」
「…土方さん」
土方が沖田の名を紡ぎ終えるより先に、外から同じ声が沖田を呼ぶ。
静かに開いた戸の先に、肌蹴た着物を羽織ったリリス土方が姿を見せた。
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