前触れなく現れた"それ"に反応が遅れるも、土方は迎合するように笑みを浮かべる。
瞬時に斬り掛かりそうになったのは、辛うじて堪えられた。

「待ってたぞ、テメェ」
「やれやれ、"本物"に用はねぇんだけどな」

リリス土方が、呆れたように嘲笑う。
土方のコメカミでびくりと青筋が立ったが、リリス土方へと足を向ける沖田に気付きその腕を掴んだ。

「行くな、総悟!あれは俺じゃねぇ!!」

しかし、必死の呼び掛けも空しく、その手は沖田に容赦なく振り払われる。
一足飛びでリリス土方の前へ移動すると、躊躇いなく彼を抱き締めた。

「土方さん、いつの間にそんなトコに」
「待たせて悪かったな」
「総悟!!」

最早沖田の耳に、土方の声は届いていない。
沖田に抱き締められたリリス土方が、沖田の肩越しに土方を見遣りほくそ笑んだ。

「見苦しいな。総悟が見てるのはお前じゃない、俺だ」
「偽者風情が舐めた口利くんじゃねぇ! 何者なんだ、テメェは!!」
「リリスだ。言っただろう」
「それで分かるか! なんで俺と同じ姿してやがる!?人の言葉が通じてんならちゃんと説明しやがれ、たたっ斬るぞ!!」
「ったく…」

鬼のような形相で捲し立てる土方に、リリス土方はげんなりと眼を伏せる。
沖田共々その場に座り込み、土方を見据えた。

「俺は、夢魔だ」
「夢魔…?」
「俺達は夢を装って男の精液を餌にしてる。俺がお前になってるのは、総悟にとっての理想がお前だったからだ」
「………なんだと?」
「俺達夢魔は、本来実体がない。だから、ターゲットにした人間の理想の姿で具現化される」
「―――!?」
「可笑しな話もあるもんだな。これだけ想われといて、当の本人が分かってないなんて」

リリス土方がニヒルに笑う。対して、土方は聞かされた話の衝撃に、思考が真っ白になっていた。
その間にも、沖田はリリス土方の身体に愛撫を繰り返している。2人の土方が交わしている会話も状況も、何も認識していないらしい。
少しずつリリス土方の息が上がり、肌は紅潮していく。
それでも意識は流されず、唖然とする土方に揶揄混じりに再び話し掛けた。

「お前がどれだけ総悟に思われてるか、教えてやろうか?」
「……は?」
「お前だって、夢精くらいしたことあるだろ」
「なッ!?」
「俺らは複数の男を食うのが基本だから、1人の男からは通常そんなに沢山食わねぇんで、大抵は食い残しが出る。その俺ら夢魔の取り溢したヤツを、お前らは夢精の名残だと思ってるワケだ。毎晩結構な人数を食ってるし夢魔自体他にも沢山いるし、食われた事ないヤツのが珍しいだろうから、それは別に気にしなくていいぜ」

リリス土方の口持ちに、土方は色んな意味で眉を顰める。
ただの生理現象の一環だと思っていた現象にそんな作為的な物があるなんて、屈辱以外の何物でもない。そんな抗い切れない裏事情は、正直知りたくなかったと思った。
そして、"基本的に食い残す"と云った割りに、昨夜の沖田にその形跡はなかったコトも思い出す。
胡乱に自分を見返す土方に、リリス土方はご明察とばかりに笑みを深くした。

「コイツは特別だ」
「……なに?」
「お前くらいだともう"夢精"しないだろ、大人は不味くて俺達あんま食わねぇから。若い方が味はいいんだけど、でもそーすると栄養のが不足しちまう」
「栄養…?」

「思い入れが深いほど、俺らにとっては価値がある」

「!!」
「味で選ぶと、やっぱりまだガキすぎて思い入れが薄っぺらいから、普段は複数の男に分けて足りない栄養を補わなきゃならなかったんだけどよ。そんな中で総悟は別格だったな、味も価値も。コイツ1人喰ってれば、それで十分なほどにさ」

然も可笑しそうに笑いを噛み殺すリリス土方とは対照的に、土方は言葉を失う。
想いの深さが価値に直結すると云うそれを、数多に餌にしてきた悪魔を以ってして、沖田のそれに至高の価値があると、リリス土方はそう言った。それの意味するものが分からないほど、土方も不敏じゃない。

まさか、沖田にそれほどまで慕われているなんて、思いもしていなかった。

しかもこんな形で"それ"を知らされては、ますますどうしたらいいのか分からない。
土方の思考は混乱し、マトモに考えることも儘ならない。いや、それ以前に、何を考えたらいいのかも纏まらなかった。
それでも、ただ1つ言える事もある。

何も知らない沖田の純粋な想いを、"餌"として利用されていることは許せなかった。


「…お前の言い分は分かった。だが、総悟からは手を引け」
「なんで?」
「他の男でも事足りるんだろが!だったら、総悟には手ぇ出すんじゃねぇってんだよ!!」
「イヤだね。複数回に分けて食うより1人で済んだ方が全然楽だし、どうせ食うなら美味い方がいいし。それに今の今まで総悟の異変に気付かなかった上に、総悟の気持ちすら知らなかったお前に、とやかく言う権利なんかねぇよ」
「それとこれとは話が違う!」
「同じだね。何より俺は、総悟を食べる代わりに総悟の夢を叶えてやってんだ」
「!」
「見ろよ、幸せそうだろ?」

リリス土方は、自分に触れる沖田の顔を土方に向けさせる。
今までに見たことのないような沖田の満たされた表情に、土方の顔が熱くなった。
どれほど自分が沖田に欲されているのかをまざまざと見せ付けられ、言いようのない羞恥が込み上げる。
沖田にそんな顔をさせているのが自分なんだと思ったら、快感にも似た優越感まで湧き上がってきてしまった土方は自責の念に駆られた。

「お前自身でこれと同じ幸せを、総悟に与えてやる事が出来るのか?」
「ッ…!」
「無理だろ。だったら、総悟の幸せを尊重してやれよ」

話は終わりだとばかりに、リリス土方は土方から沖田へと視線を移動させる。
沖田の首に腕を絡め、体を屈めて沖田の顔を覗き込んだ。
交錯した視線に沖田が嬉しそうに微笑む。それを見た瞬間、土方は反射的に沖田の背を抱き込んでいた。

「それでも、テメェなんざに総悟はやれねぇ!!」

付け込まれるほど深く純然な情意なのに、紛い物に受け入れられることで満たされた気にさせられていては、沖田自身は全く報われていない。そのぞんざいとも云える扱いが、沖田の想いその物を嘲っているように思えて、土方には余計我慢がならなかった。
例え本物の自分が沖田に応えられないとしても、仮初めの幸せに誤魔化され続ける方がよほど哀れだ。それが現実だと、信じていればいるほどに。

「……総悟を返せ」

土方の腕の中で、沖田は微動だにしない。
まるで、リリス土方に触れていないと機能出来ない人形のように、なってしまっている。
険悪に睨み付けてくる土方に対し、リリス土方の目が冷たく細まった。




−−−
夢精が夢魔の仕業ってのは宗教的な俗説らしいよ
ついでに大人の夢精率の低さも適当に理由をこじつけてみた★(<いらん根回しばっかする人だねホントに)



BACK NEXT

TOP


inserted by FC2 system