恐る恐るリリス沖田の目を見ると、情欲の色も確かに見えるが、どこか冷めた沖田の眼差しは健在である。
常時欲情したような風采は、夢魔としてのデフォルトなのだろうか。
それが本物とリリスの違いなのかもしれないと、土方はぼんやり考えた。

「何も知らねぇまま、奴らのトコに行っちゃいけやせん。俺でなく、また別の夢魔を呼ばれて仕舞いでさぁ」
「……お前、昨日俺を食ったヤツ…だよな?」
「ええ。美味かったですぜ」

何か引っ掛かる物言いに対する返答に、土方は眉を顰める。
だが、昨日相対した時とは、間違いなく様子が違う。
半信半疑ながらも土方が刀から手を離すと、リリス沖田も肩の力を抜いた。
実体のない悪魔ならば斬られる心配などないだろうから、単純に緊張した空気に息が詰まっていたらしい。

「…何も知らねぇままってコトは、お前が何か教えてくれるってのか?」
「何か訊きたいんですかぃ?」

目を細めた笑みを浮かべたリリス沖田が、畳の上に腰を下ろす。
その言葉に、土方は眉を寄せた。

「…お前ら、精液と一緒に生気も食ってるだろう」
「おや」
「このままじゃ、総悟はアイツに殺される」
「……………」

土方の推測は的を射ていたらしい。
自分の前に同じように座る土方を、リリス沖田が感嘆の眼差しで見詰めた。

「流石、御明察でさぁ。本来は少ししか食わねぇから、射精の倦怠感で誤魔化せるんですけどね」
「でも、アイツは全部食っちまってるから…」
「それに伴う生気の消費も、激しくなるでしょうねぃ」

リリス沖田の肯定に、土方はリリス土方への憎悪がより一層膨れ上がったのを感じる。
夢だ何だ大層な奇麗事を並べ立てていたが、結局のところお為ごかし。
自分の本能の為だけに、沖田を食い捨てるつもりでしかいないワケだ。

「……なんで総悟が」
「それは単に運が悪かったとしか、言いようがないですねぇ」
「何故理不尽に人を殺すことに、躊躇わない?いつも、殺しまではしてねぇんだろう?」

彼らは"特質な餌"さえ見付けなければ、普段は人を死に追いやるほどの食生活はしていない。これまでの話の中で、それは確かなのだろうと土方は思う。
それならば何故、本来殺さなくても済む人間を平気で殺せる? それが、悪魔と呼ばれる所以だからか?

「…それはちょっと違いますねぇ」
「違う?どこがだ?」

土方の訴えを静かに聞いていたリリス沖田が、一段落したところで息を吐く。
確信を持っていた推理にケチがつき、土方は得心がいかない。
リリス沖田は、いいですかぃ、と口火を切った。

「俺らは人を"殺さない"んじゃなくて、"結果として殺してない"だけにすぎないんでさぁ」
「!!」
「サキュバスから派生した俺らリリスは、元々人間の男を憎んでやす。だから、好意を平気で利用し嘲笑える。"食事"の都合で今のところ生かす結果になってやすが、元来人を殺すことなんざこれっぽっちも厭わねぇし、むしろ願ったりってなもんでさぁな」
「憎む…?なんでだ?」
「それには、俺らの初祖の話が絡んでくるんですがねぃ」

確認の意味を込めてか、リリス沖田が一息間を空ける。
それに対し無言で応える土方を了解と取り、リリス沖田は話し始めた。

風と嵐の神エンリルの妻である風の女神ニンリル。暴風を司る南風であった彼女は、アダパの船を転覆させた為、彼に翼を破壊された。
アダパは知恵の神エアが作り出し、出来ない事はなく口を開けばその言葉通りとなる神のような賢い人間だ。
以来彼女は、人類に敵意を抱くようになったと云われている。
更にある時、ニンリルはエンリルに強姦されてしまうのである。
その罰としてエンリルは冥界へと追放されるが、ニンリルは強姦のトラウマに苦しめられる。世界を放浪した後、エンリルを追って 冥界へ降り、男性への復讐を誓いリリスとなった。

「…ってのが、俺らの間に伝わってる昔話でさぁ。それが俺らの中にある"唯一で絶対"の存在意義ですから、疑問に思ったコトもありやせん」
「昔話…」
「それでも、満更絵空事でもねぇんですぜ」
「…なに?」
「時たま、"その遺志"を色濃く受け継いだリリスも現れやすから」
「……まさか…」

含みあるリリス沖田の物言いに、土方に嫌な予感が走る。
それを、リリス沖田が首肯した。

「あの人が、正にそれでさぁ。それも、過去稀に見ないほどの深い思い入れを持ってやす。千載一遇の好機ですからね、本気で何もかも搾り取るつもりですぜ」
「――――!!」

これまで漠然とした憶測でしかなかったモノ。それがハッキリとした形で突き付けられ、土方はゾッとした。
なんとかしなきゃと、焦りから気が逸る。

「どう…したら」
「遺恨の対象にするにはお門違いだと分からせてやれれば、なんとかなるやもしれやせん。あとは、アンタ次第でさぁ」

殆ど無意識に発した独り言。それに返答があったことに、土方は驚いた。
落ちていた視線を上げると、無表情なリリス沖田の瞳とかち合う。
土方はその顔を、じっと覗き込んだ。

「お前…なんでそんなに協力してくれるんだ?」

これでは殆ど、仲間を売ってるようなものだ。
当然と云えば当然の疑問が、自然と土方の口に乗る。
するとリリス沖田の端整な顔に、穏やかな微笑が浮かんだ。

「昨日アンタを食った時…食い切れなかったんですよねぃ」
「…それが普通なんだろ?」

まして、成人男性は不味いんだと散々豪語していたのだ。
今更そんなコト、不思議には思わない。
リリス沖田の本意が汲み取れず、土方は首を傾げた。




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リリスの由来に関してはメソポタミアの初期シュメール神話からバビロニアのアッカド神話辺りの断片から抜粋
大分簡略化しちゃったけどそこはご愛嬌ってコトで><
興味あったら読んでみるとなかなか面白いです ただしリリスの話は本筋から外れてるので正規の話にはほぼ出てきませんけどね^^;



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