思い入れの強さが彼らにとっての栄養価値。1人で事足りるほどの強い想いを持つ若い男はそういない為、多種に渡り摂取する事でそれを補っている。だから、基本的に1人からはそう多くは食べない、彼らは確かにそう言った。
そんな中で沖田こそが異質な存在だったワケで。
自分に、そんな沖田とタメが張れるほどの慕情などないと、土方には変な自信があった。
むしろ、完食されてたら、それの方が驚いたに違いない。
「…通常、俺らはただの夢の存在で。しかもその人間にとっての理想の姿なワケだから、喜悦に応えられた事しかなかったんですよねぃ、今まで」
「…………?」
「実情を知った人間を強引に支配して餌にしたのは、アンタが初めてだったんでさぁ。その所為なんだろうけど…」
単純な欲望や好意だけじゃなくて、悲しさとか苦しさとか…それ以上の深い愛情と慈悲の心。
今までに直面した事のない感情が溢れてて、俺には重すぎて受け入れられなかった。
「!!」
「年の割りに味はよかったんですが、俺らが餌として食うには…荷が勝ちすぎてやした」
どこか物悲しそうに、リリス沖田が微笑う。
一方の土方は、自分でもハッキリしていない心の内を露わにされたようで、何やら気恥ずかしくて堪らない。しかも、まるで自分が聖母にでも思われてるような扱い。なんとも釈然としない。
けれど、困惑する土方を歯牙にも掛けず、リリス沖田は一息吐くと、先を続けた。
「純粋な想いだ愛だの言った所で、俺らの見せる紛い物で満たされるそれは所詮煩悩や下心にすぎなかったワケで。そして俺らも、それが人間の本質の全てだと思ってやしたから……なんか衝撃だったんですよねぃ、アンタの心理状態は」
「え」
「そんな人間の一面もあるんだ…と思ったら、俺は初めて自分のしてきたコトの意味ってモンを考えちまいやした」
「!」
「もう俺は、人間を食えやせん」
先刻、自分達の存在意義はたった1つだから、それについて疑問に思うことはないと話した。その例外に漏れず、同じ考え方だった筈のリリス沖田が、今初めて見方を改めたと、そう言った。
全く話が通じないワケじゃない。人間と通じた生態環境にある以上、彼らとて完全に人間の事情を切り離せはしないのだ。
微かな光明を感じ、希望が見えた事に土方は安堵する。しかし、その反面で小さな胸の痛みも覚えた。
リリス沖田は、もう人間を食べられないと言った。詰まる所、絶食宣告。
それの行き着く先など、火を見るより明らかだ。
"殺せないから"食べられないのではない。"人の気持ちを利用することに抵抗を覚えてしまったから"食べられないのだ。
感性的な問題である以上、土方に"気にせず食え"なんて無責任なコトは言えない。
しかし自分が起因して、しかも改悛した相手を見殺しにする形になるのは、なんとも寝覚めの悪い話だ。
それが、例え摂理だとしても。
「なんて顔してんですかぃ」
悲痛に顔を歪める土方に、リリス沖田が苦笑する。
小首を傾げ覗き込み、土方の頬に手を添えた。
「アンタが罪を感じる必要なんてねぇですよ。俺はアンタに逢えた事、これっぽっちも後悔してねぇ」
「……ッ」
「アンタの中の"沖田総悟"は、いい人間ですねぃ。感受性豊かで素直で実直だ。どっか間違った方向に伸びてるトコは、ありやすけどね」
ニコリとはにかんだ顔は、現実にも極偶に沖田が見せる顔。
死を覚悟した上で尚安らかなそれに、土方の胸が締め付けられた。
「総…悟」
「俺は、総悟じゃありやせん」
思わず漏れた名前は、即座に否定される。
頬に触れた手はそのままに、リリス沖田の表情が鋭利な物へと一変した。
「俺は、アンタのその気持ちを信じた。アンタの中にある"沖田総悟"を信じたんでさぁ。だから」
アンタ達を助けたい。だから、俺はここに来た。
「!」
「"アンタの総悟"を、助けなせぇ」
頬を離れた掌が拳となり、土方の胸をトンと叩く。
土方は一瞬戸惑ったが、すぐに頷くと立ち上がった。
しかし部屋を出ようとした所でリリス沖田に呼び止められ、振り返る。その遠慮がちな声に、どうした、と促した。
「俺、ここに居てもいいですかぃ?」
「え?」
「と言っても夜だけですが。俺らは太陽の光に当てられると、実体化出来ないんで。夜の間は俺らの食事の時間なんだけど………俺にはすること、なくなっちまったから」
「!」
「いつまでかは分からないけど…最期の時は、アンタの隣で迎えたいんでさぁ」
ポツポツと零されたリリス沖田の言葉に、土方は軽く目を見開く。
最後は消え入りそうな声だった。
ほんの数歩の距離を戻り、リリス沖田の髪を土方はクシャッと掻き混ぜる。リリス沖田は、意外そうに目を丸くし見上げてきた。
「いつでも来い」
それだけ告げて、最後にポンとリリス沖田の頭を叩く。
そして、今度こそ土方は踵を返した。
部屋に残されたリリス沖田は、すぐに聞こえなくなった土方の足音にいつまでも耳を澄ましていた。
土方の触れた髪を自分で撫で、敷かれていた布団に横になる。
土方の匂いに顔を埋め、リリス沖田はゆっくりと目を閉じた。
「…頼めば食わせてくれるかもなぁ、土方さん」
もしかしたら、と思う。
和姦だったら、あんな胃靠れの起きそうな重い感情は混ざらない可能性が高い。
同意なら利用する罪悪感も湧かないし、それならまだ自分にも食事が出来るかもしれない。
何だかんだ言って、死にたいワケではないのだから。
「今度訊いてみよう」
結局、どこまでいっても沖田は沖田であるらしい。
リリス沖田は、ニタリとサド王子特有の笑みを浮かべた。
−−−
BACK NEXT
TOP