真っ直ぐに沖田の部屋に駆けて行った土方は、迷いなくその戸を開ける。
案の定というか、沖田に跨るリリス土方の姿を見付け、睨み付けた。

「…お前、懲りねぇなぁ」
「こっちの台詞だろ」

乱入した土方を、リリス土方は呆れたように見返す。
見せ付けるように沖田の首へ腕を回すその仕種に、土方の頭にカッと血が上った。

「総悟を放せっつってんだろがぁぁぁ!!」

リリス土方も、基本的に見た目は普通の人間と変わらない。それが、実際に交わり"食事中"になるとその片鱗が露呈するらしい。もしくは、意図的に能力を発動させようとした時か。
大きな翼と触角、紫色の瞳がその象徴。
それが表に出ていない為、土方は直感的に未遂であるコトを感じ取った。
土方はリリス土方を突き飛ばし、沖田を腕に抱え込む。間髪入れずに、沖田の左手と自分の右手を手錠で繋いだ。

今度ばかりは、どんな手を使ってでも引き下がる気はない。

「テメェ…」

その土方の行動に、リリス土方が低く唸る。
すぅっと瞳孔が細まるのを視界に留め、土方は慌てて視線を逸らした。
何度も何度も脳内で試行錯誤を繰り返したその結論。
意を決した土方は、徐に口を開いた。

「……擦り込まれた私怨を、総悟で晴らそうとするな」
「!」

土方の言葉に、リリス土方が瞠視する。
その発言の出所を思索し、合点がいったらしく舌を打った。

「……テメェに、何が分かるってんだ」
「少なくとも、テメェのしようとしてることが的外れだってコトくらいは分かるよ」
「テメェに俺の何が分かる!!」

リリス土方が激昂すると、それに共鳴するかのように空気が震える。
ビリッと響いた振動に、土方は沖田を抱き締める力を更に強くした。

「ほんの一握りの過ちだけで、人間の男全部を怨む道理はねぇだろ…。まして、総悟なんて全くの無関係の相手にぶつけるだけで、お前は満足出来るのか?」
「総悟だけじゃ満足出来ねぇだろうよ。だから、それが満たされるまで、お前らを食い尽くす。それが俺らの生きる理由だ」
「出来もしねぇコト言ってんな。"それ"が無理だって分かってるから、手近でみみっちい憂さ晴らししてるだけなんじゃねぇか、お前らは」
「黙れ!!」

リリス土方を逆撫でるコトは分かっている。それでも土方は、自分が感じるままに畳み掛けた。
リリス土方が、怒りに身体を戦慄かせる。自分と目を合わせない土方の髪を掴み、顔だけを自分に向けさせた。

「種族全てに憎悪の湧くほどの怒りが、お前なんかに分かる訳がねぇんだよ。同じ目に遭ったこともねぇヤツが…」

忌々しげに吐き出されたリリス土方の声が、プツリと止まる。
掴まれた髪の痛みに顔を歪ませていた土方が、その不審さに僅かに視界を開けた。
厭らしく嘲笑を浮かべるリリス土方が網膜に映る。
得体の知れない寒気が走った。

「…そうだよ。だったらお前、俺と同じ目に遭ってもまだそんなコト言えるか、試してみるか?」
「な…!?」
「同じ屈辱受ければ分かるぜ、このやり場のない怒りはよ」

言うが早いか、リリス土方の瞳孔が細まる。
逸早く再び目を閉じた土方は、自我が乗っ取られる感覚が訪れないことにホッとした。
しかし、リリス土方は取り乱すこともなく、平然としている。
そして数秒の沈黙の後、土方の腕の中で微動だにしなかった沖田の身体が、ピクリと動いた。

「総悟…!?」

気付いた土方が腕を緩め、沖田の顔を覗き込む。
その瞳が紫色に変わっていることに、土方は愕然とした。

「お前、総悟に何しやがった!?」
「普段は夢を装うんだけどよ。総悟に関しては、この先ずっと食い続けるつもりだったから、本人だと思わせた方が永続させ易いと思ってさ。流石に毎晩同じ夢見させ続けたら、何かしら不都合が生じ兼ねねぇだろ?」
「………!?」
「最初の段階で、総悟は俺の脳内支配下に置いてある。総悟だけは、目を見なくても操作出来るんだぜ」
「なッ」

なんとなく、土方は分かってしまった。リリス土方の意図する奸策。
その打開を考える余裕もなく、土方は沖田に組み敷かれた。

「総悟!!」

悲痛に叫ぶも、沖田には聞こえていない。
恍惚に染まった笑顔に見下ろされ、土方の全身から血の気が引いた。


「愛する男に暴力で犯される苦しみ、思い知れよ」





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