ずっとずっとずっと好きだったから。
あの人から誘われた時は、夢かと思った。
†Lilith†
「なんか最近の総悟、おかしくないか?」
朝の会議が終わった時、コソコソと傍らにやって来て耳打ちした近藤に、土方は軽く眉を顰める。
確かに土方も、それは感じていた。でも、気のせいだと思っていたかった。
しかし、第三者にまで言われてしまえば、それは認識せざるを得ない。
「……確かにな」
眉間に皺を寄せたまま室内を見渡せば、未だぼんやりと座った沖田が目に入る。
じっと見ていると、視線に気付いたのか沖田が土方と近藤の方へと振り返った。
にこりと笑ったその顔に、土方は何故か背筋が寒くなるのを感じる。
原因は分からない。漠然とした、"悪寒"。
その沖田の表情に、近藤の顔も険しく変わった。
「なんてゆーかさ、覇気がない…と云うより」
「"生気がない"」
「そう、それ」
ポツリと零された土方の言葉に、近藤が頷く。
暫くは唸っていた近藤だが、考えるよりは直接訊いた方が早いと判断したらしい。ひょいひょいと沖田に近付き、その顔を覗き込んだ。
「総悟、元気?」
「へい、上々でさぁ」
近藤の後から数秒遅れで、土方も2人の元へと歩み寄る。
探りになってるのかなってないのか、近藤は普段通りに沖田と接していた。
他愛ない近藤とのその遣り取りの中でも、沖田は何度も土方へと視線を送る。
顔色もよくなく目も虚ろなのに、どこか幸せそうなのが余計に怖かった。
「土方さん」
ふと、近藤との会話が切れた時、難しい顔をしたままの土方に沖田が声を掛ける。
突然照準を当てられ、土方の反応が遅れた。
「なんだ?」
「身体は大丈夫ですかぃ?」
「は?」
脈絡ない沖田の気遣いに、土方は怪訝な声を上げる。
特別心配されるようなコトなど、最近起こってはいなかった筈。何が誘引してそんな結論になったのか、土方にはまるで見当が付かない。
けれど、沖田のそれが本気だとは分かった。
なので茶化しはせずに"大丈夫だ"と、ちゃんと答えてやる。
すると、心底安心したように沖田が笑った。
その笑顔に、また言いようのない靄が土方の胸に広がる。
しかし沖田に、その土方の機微を感じ取った様子はまるでなかった。
「よかった…。じゃあ、また」
「? ああ、またな」
重そうに身体を起こした沖田が、ゆっくりと部屋を出る。
それを見送った近藤と土方の胸中には、更に得体の知れない深憂が広がった。
「…総悟本人に、異常の自覚はなさそうだな」
「だな」
近藤はそれを確認してたのかと、土方は頭の片隅で納得する。
そして、それが何より問題なのかもしれない、と思った。
どうにも解決策は見付からない。
その場はそれ以上何も話すコトもなく、近藤と土方はそれぞれ仕事に取り掛かった。
最近、土方の寝付きはあまり思わしくない。妙な胸騒ぎで、すぐに目が覚めてしまうのだ。
それでも、普段は床の中で往生際悪く微睡んでいる。なのに、何故か今日は自然と起き出してしまった。
何するでもなく、庭に面した廊下を歩く。
煌々と輝く満月が、どこか不気味に感じた。
「 」
ふと、誰かの声が聞こえ、土方の足が止まる。
正に丑三つ時とでも呼べるこの深夜。まだ起きてるヤツがいるのだろうか。
夜回り組には、離れに待機場と仮眠室が用意してある。血気を振り撒かれては、他の隊士達の安眠に関わる故の配慮だ。
其方の方向ではない。明らかに、本来静寂である筈の方角から声が聞こえる。
音源と思しき場所へ向かう途中、到着するまでもなく土方は気付いた。
現場は沖田の部屋だ。
それも、声が聞き取れる距離まで来て、すぐに状況も分かってしまった。
"あの野郎…"
沖田が誰かを抱いている。
このところの沖田の活気のなさは、夜毎の閨事で寝不足なのが原因なのかと思ったら、急に土方は頭にきた。
"バカバカしい! 心配して損した"
それでも、真っ只中に乱入して咎めるほど土方も不粋ではない。
明日の朝一で注意すればいい。
そう思い、土方は苛立った気持ちを抱え自室に戻ろうと踵を返した。いや、返そうとした。
しかし、沖田の部屋から視線を外そうとした時、一瞬視界に留まったそれに全身が硬直する。
月明かりで微かに浮かんだ影。錯覚でなければ、確かに見えた。
動物を思わせる、大きな翅翼。
間違っても、人間に備わっている部位ではない。
天人でも相手にしてるのだろうか?まさか。
土方は、今自分が見た物が信じられず、その場から動けなくなってしまった。
さすれば自ずと、また声が聞こえてくる。その声に土方はまた愕然とした。
「総…悟ぉ」
聞き覚えがあるどころではない。
掠れた嬌声は、余りに土方の声と酷似していた。
でも、そんなコトがあるワケない。
だって、今自分はここに居る。
ふらりと吸い寄せられるように、沖田の部屋の障子に手を掛ける。
僅かに出来た隙間に目をやると、中の人間と目が合った。
土方に気付いたその人間ならざる物が、妖艶に微笑む。
「――――俺…?」
翼の生えた土方が、沖田の上で乱れていた。
−−−
うちはいつも総ちゃんが主役なので偶にはひじーにも頑張ってもらおうかと(笑)
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